TSMCのサプライチェーン参入に向けて~熊本の現状と方向性~
はじめに
TSMCの熊本第 1 工場が2024年12月に量産を開始した。第 2 工場は2027年末の稼働開始を予定している。これに伴い、TSMCの従来からの取引先である日本の大手企業や台湾企業が、熊本県に新たに進出したり拠点を増強したりする動きもみられる。一方、地場企業がTSMCのサプライチェーン(供給網)に参入するのは容易ではないとの指摘が多い。本稿では、TSMC熊本工場の調達体制を概観した後、地場企業の現状や参入を後押しする行政などの施策を整理する。
目次
- TSMC熊本工場における調達
- 大手サプライヤーの動き
- 地場企業の参入に向けた動き
- 製造装置産業への参入を重点支援へ
レポート一部
1.TSMC熊本工場における調達
(1)経済産業省が示した計画
TSMCの熊本第1工場は回路線幅12~28ナノ(ナノは10億分の1)メートル、第2工場は6~40ナノメートルの演算用ロジック半導体を生産する。いずれもウエハー表面に回路を形成する前工程を手掛ける。TSMCによると、第1工場と第2工場を合わせた投資額は約200億ドル(約2兆9,600億円、1 ドル=148円換算)。経済産業省は2022年6月に第1工場、2024年2月に第2工場を、日本における先端半導体の安定生産や半導体産業の活性化にも資するなどとして特定半導体生産施設整備等計画に認定し、第 1 工場に最大4,760億円、第 2 工場に最大7,320億円の補助金を出すことを決めた。
経産省は特定半導体生産施設整備等計画の認定にあたって、半導体の基板となるウエハーを主に日本のサプライヤーから調達すること、金額ベースで間接材の50%以上をローカル・サプライチェーンから購入することを熊本工場を運営するJASMに求めている(図表 )。間接材とは、ウエハー以外に半導体生産に必要な原材料のことをさす。具体的には、化学薬品や研磨剤、特殊ガスなどが挙げられる。日本メーカーが強みを持つ半導体製造装置は間接材には含まれない。
なお、経産省は第 2 工場の認定時に、ローカル・サプライチェーンを「日本において製造・加工等の工程を実施する日本に立地する法人(外資企業を含む)」と定義し、飲食・セキュリティ・オフィス機器・清掃等のサービスについても、最大限地元の企業のサービスを利用することを求めている。経産省は、これらのサービスも間接材に含まれるとしている。
