【専門家寄稿】 変化する時代の中で利益を確保し続けるには? 熊本学園大学 商学部 教授 足立 裕介氏

はじめに

 AIやロボットをはじめとしたテクノロジーの進化は日進月歩であり、そのスピード感は目まぐるしい。かたや、自然災害がもたらす災禍は年々規模を増しており、その対応や対策に翻弄される日々が続く。それらに加えて、資源高騰や人手不足などへの対応も待ったなしであり、経営を取り巻く環境は厳しくなる一方だ。こうした環境の変化・激化は当然にどの企業にも降りかかるものであるが、そのような中でも着実に高水準の付加価値を獲得する企業が存在するのも事実である。
 本稿では、変化の激しい時代の中でも高付加価値を獲得できるための取組みについて、アンケート結果や筆者の研究結果に基づきながら考察していく。

要旨

  • 企業へのアンケート結果により、高付加価値を獲得している企業には「従業員満足を重視している」と「経営理念が従業員に浸透している」という項目を自社の強みとして挙げる企業割合が多いことがわかった。
  • 不確実な状況下で環境に応じて生き残るための経営者や組織の能力として、ダイナミック・ケイパビリティ(DC)が提唱されている。DCを身につければ、従業員の個人レベルでの意識の向上が図られたり、柔軟な組織を形成できたりする。その能力形成の有効な手段の一つが、「経営理念の浸透」である。
  • 有事において目標達成に貢献するのは、「経営理念の浸透」に加え、心理的安全性の高さや目標達成へのプレッシャーなどである。根回し文化や年功序列といった旧来型の日本的経営の要素は、平時においては有効な場面もあるが、有事においては有効に機能しないことがわかった。
  • 因果関係としては、経営理念を浸透させることによって心理的安全性や上司の支援といった組織文化が醸成され、それが従業員満足の向上をもたらす。そして、満足度の高まった従業員によって生み出された高品質の製品やサービスを享受することにより顧客満足度が高まり、結果として企業業績が向上するという関係が導かれた。
  • 経営理念の策定および組織への浸透は、それほどコストをかけずとも着手できる取組みである。平時においてこそ、これらへの十分な取組みを行うことが求められる。

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