100年の変遷から見る熊本県の農業 — 構造変化と今後の展望

熊本県は全国有数の農業県として知られてきました。
しかしその一方で課題も抱えています。
本稿では、熊本県の農業をめぐる100年の歩みを振り返りつつ、現状や強み、課題の解決策を探り、将来の展望について整理します。
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熊本県における農業の位置づけと経済規模

熊本県の2022年度の農業総生産額(農業が生み出した付加価値額)は1,576億円で、県内総生産額6兆5,651億円の2.4%を占めていますが、これは、経済活動別に見たときに最も割合が大きい製造業の21.6%のおよそ1割の規模にとどまっています。
県内総生産額に占める農業の割合の推移をみると、1955年以降は全国傾向と同様に、農業の比率が一貫して低下していきました。
これは「農業が経済的に縮小している」という意味では必ずしもありません。農業産出額(農産物の売り上げ相当額)は、生産性向上を背景に1960年以降増加し、1990年にピークを迎えました。その後減少傾向になったものの、2010年代半ば以降は再び上向きに転じています。
現在の熊本県は、農業産出額と基幹的農業従事者数(主に自営農業に従事する者)でともに全国5位に位置しており、耕地面積と比較して農業産出額が大きい点が特徴です。
収益性の高い野菜や畜産の生産が盛んなことを反映しており、生産農業所得では全国2位という高水準を維持しています。
農業人口の構造変化

農業従事者の減少と高齢化
熊本県の農業を職業とする人口は、1960年以降、労働力が製造業やサービス業へ流出したことから、一貫して減少しています。1960年に約36万3,100人いた基幹的農業従事者は、2024年には約4万1,300人となり、約9割減の水準にまで縮小しました。
従事者数だけでなく、年齢構成も大きく変化しています。
60歳以上の割合は2000年代から5割を超え、2024年には75.8%に達しました。
一方で、29歳以下の割合は1965年の21.0%から、2024年には1.2%まで低下しており、農業の若年層参入が極めて少ない状況となっています。
企業参入と外国人労働者の役割
新たな担い手として、企業による農業参入が進んでいます。
2009年の改正農地法の施行により参入条件が緩和されたことを背景に、2023年度までの15年間で累計262件の企業参入が生じています。
一方で、新規就農者数は2012年以降減少傾向にあります。
そのようななかで、近年外国人労働者の重要性も増しています。過去10年で、新型コロナウイルスの影響を受けた2021年を除き増加が続きました。出身国はベトナム、フィリピン、インドネシアの順に多く、農業従事者全体に占める割合は8.5%となっています。
熊本県の農業の展望について、レポートに詳細にまとめています。
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熊本県の農業の生産構造と農業産出額

1960年以降の熊本県の農業産出額の内訳を見ると、1968年まではコメが40%台で推移し、農業の主力でした。一方で、熊本県は1950年代半ば以降、野菜や畜産といった成長分野の一大産地形成に注力し、生産基盤の整備や機械化を進めてきました。
施設栽培の導入などにより野菜生産は近代化が進み、生活水準の向上に伴う野菜消費量の増加も相まって、1960年代半ば以降は野菜の産出額が全国平均を大きく上回るペースで増加しました。この頃から、高品質で付加価値の高いトマトやスイカが、本格的に出荷されるようになります。
畜産についても、1960年代以降、和牛や乳牛を中心に振興が図られており、野菜と畜産が熊本県の農業をリードする存在となっていきました。
こうした積み上げの結果、熊本県の農業産出額は1990年に4,016億円でピークを迎えています。
1990年代に入ると、市場開放が進んだことで、外国産農畜産物の輸入が増加しました。さらに景気低迷も重なり、消費者の購買行動は比較的安価な輸入品へと向かった結果、国産農畜産物の価格は下落し、熊本県の農業産出額も全国と同様に低下傾向となりました。
一方で、2010年代半ば以降は為替相場が円安に変わったことで、輸入品の価格優位性が縮小し、日本から海外への農畜産物輸出は増加に転じました。
円安は農業資材価格を押し上げるマイナス要因でもありますが、そのコスト上昇分の価格転嫁も進んだ結果、近年の農業産出額の増加要因の一つとなっています。
熊本県農業の輸出の動向

熊本県からの農畜産物輸出が本格化したのは、2004年度にJA玉名とJA八代が国の支援を受けて、台湾や香港向けに温州ミカン、ナシ、イチゴのテスト輸出を開始したことがきっかけです。
2005年3月には、県と農業団体が一体となって輸出促進に取り組むための「熊本県農畜産輸出促進協議会」が設立され、海外商談会や物産フェア、輸出セミナーなどを実施し、継続的な販路開拓とブランド構築が進められました。
2010年代半ば以降は、円安基調と世界的な日本食ブームが追い風となり、熊本県の農畜産物輸出額は増勢を強めます。県による海外バイヤーの招へいや現地フェアの開催など積極的なPRも奏功し、2024年度の輸出額は約70億9,000万円と過去最高を更新しました。
熊本県農業のブランド向上策

熊本県は、農業産出額で全国5位に位置するだけでなく、不知火類(デコポン)など7品目で全国1位を誇るほか、全国上位に入る品目が多数存在します。
1998年度以降の生産額ベースの食料自給率を見ると、全国が概ね58〜72%の範囲で推移する一方、熊本県は142〜162%と常に100%を大きく超えています。
一方で、県が実施した各種調査によれば、農業産出額が全国トップクラスであることが十分に認知されていないため、「熊本=食」や「食事のおいしい地域」といったイメージには必ずしも結びついていないと分析されています。そのため、熊本の持つポテンシャルを最大限に活かすべく、販路拡大や高付加価値化に向けた取り組みが進められています。
代表的な施策が、2013年から開始された「くまもと県南フードバレー構想」と「くまもとの赤」です。
さらに県は、2024年に「食のみやこ推進局」を設置し、2025年7月には「食のみやこ熊本県」創造推進ビジョンを策定しました。このビジョンでは、EC(電子商取引)による販売強化や輸出拡大に向けた新規国の開拓など、重点7項目のプロジェクトが掲げられています。
目指す方向性は、熊本の「食」で世界を魅了し、農・食関連産業の活性化と県民生活の豊かさの両立を図ることとされています。
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