TSMC進出と熊本の渋滞問題 ― なぜ深刻化し、どう解決するのか

近年、TSMCの進出によって半導体産業の集積が進む熊本都市圏では、深刻な渋滞が地域成長の大きな足かせとなっています。
国際的な調査でも熊本市の渋滞は「政令市ワースト」どころか世界上位に位置付けられており、産業の発展と都市機能の持続可能性を考える上で看過できない課題です。
本稿では、なぜTSMC進出とともに渋滞が注目されるのか、その背景と解決の方向性を整理します。
世界的にも深刻な熊本の渋滞

熊本市の渋滞は、世界の交通情報を収集・分析しているオランダのTomTom社が発表した「Tom Tom Traffic Index 2024」で世界4位にランクインするほど深刻です。
特にTSMC工場が立地するセミコンテクノパーク周辺や光の森、大津地域では、朝夕のピーク時に平均速度が自転車以下となる区間も見られます。
これまで「熊本はクランク状の道路が多いから渋滞する」といった声もありましたが、実際には郊外への工場進出と自動車依存の強さが相まって、都市全体を巻き込む構造的な問題に発展しているのです。
TSMC進出と渋滞拡大の関係

TSMCをはじめとする半導体関連企業の進出は、新規雇用や物流需要の拡大を伴います。
特に数千人規模の従業員通勤や資材輸送が同一の時間帯に集中することで、既存の交通インフラは大きな負荷を受けています。
TSMC渋滞が社会的に問題視される背景には、単に車の数の増加だけでなく、公共交通の脆弱さに起因しています。
2017年全国都市交通特性調査によると、福岡市の公共交通分担率が23.4%に対し、熊本市は6.4%にとどまり、鉄道やバスの機能が十分に果たせていません。
この構造的な要因が、半導体産業集積と重なり、渋滞を一層深刻化させているのです。
「車1割削減・渋滞半減・公共交通2倍」という目標

こうした課題に対し、産官学が掲げているのが「車1割削減・渋滞半減・公共交通2倍」という共通目標です。
熊本市中央区の交通量と速度の研究データによれば、ピーク時の交通量を1割削減すれば速度は33%向上し、渋滞損失時間は45%削減できることが実証されています。
実際に、年末で仕事納めの人も多い2021年12月28日には、熊本市中心部の朝ラッシュがほぼ解消された事例も報告されており、自動車利用をわずかに抑えるだけで大きな効果が得られることが裏付けられました。
ただし、車を減らすためには公共交通の利用促進が不可欠です。
熊本都市圏の2012年時点での交通手段分担率は公共交通5.9%に対して自動車64.4%と、典型的な自動車依存型の都市構造を示しています。そのため車の1割=全体の約6%を公共交通に転換させるには、公共交通利用をほぼ2倍にする必要があります。
ところが2023年の調査では、バス利用の低迷により公共交通分担率は5.3%に低下し、自動車は67.0%へ増加しました。つまり状況は改善どころか悪化しています。
公共交通強化と短期的な改善策

渋滞緩和のためには、公共交通の利用促進が不可欠です。
バス事業者による共同経営やダイヤ改正、ICカード割引制度に加え、2024年には「渋滞なくそう!半額パス」といった政策的割引が導入され、想定以上の利用者増につながりました。
さらに、信号サイクルの見直しやバスレーン導入といった運用改善は、大規模な道路建設を伴わずとも短期的な効果が期待できる施策として注目されています。
成長と都市機能の両立に向けて

TSMC進出が象徴する熊本の半導体産業集積は、地域経済の成長を牽引する一方で、渋滞という副作用をもたらしています。今後の成長を持続可能にするには、「車1割削減・渋滞半減・公共交通2倍」という実証データに裏付けられたロードマップを政策に落とし込み、短期・中期・長期で着実に実行していくことが不可欠です。
TSMCの経済効果について、レポートに詳細にまとめています。
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