熊本に広がるTSMCサプライチェーン ― 地場企業の参入と地域産業の新たな挑戦

2024年12月にTSMC熊本第1工場が量産を開始し、2027年末には第2工場の稼働も予定されています。これに伴い、サプライチェーンの再構築と地域企業の参入機会が急速に広がっています。
一方で、半導体製造という極めて高度な産業構造の中で、地場企業がどのようにTSMCのサプライチェーンへ参入し、持続的に関与していくのかという課題も浮き彫りになっています。
本稿では、TSMCの調達方針や主要サプライヤーの動向、熊本県内企業の挑戦と取り組みを整理しながら、熊本におけるサプライチェーン形成の現状を探ります。
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経済産業省が定める「ローカル・サプライチェーン」戦略
経済産業省は、TSMC熊本工場を「特定半導体生産施設整備等計画」として認定し、第1工場に最大4,760億円、第2工場に最大7,320億円の補助金を決定しました。
その条件として、「半導体の基板となるウエハーを日本のサプライヤーから調達すること」や、「間接材の50%以上をローカル・サプライチェーンから購入すること」が求められています。
間接材には、ウエハー以外の化学薬品、研磨剤、特殊ガスなどが含まれます。なお、日本メーカーが強みを持つ半導体製造装置は、この間接材には該当しません。
また、経済産業省は「ローカル・サプライチェーン」を「日本において製造・加工等の工程を実施する日本に立地する法人(外資系企業を含む)」と定義しています。さらに、飲食、セキュリティ、オフィス機器、清掃などのサービス分野も間接材に含まれるとし、「地元企業のサービスの活用を最大化する」と明記。TSMCの進出効果を地域経済全体に波及させる構想が描かれています。
関連記事:TSMCの熊本第2工場計画の現状と影響
JASM・TSMCの国内調達方針と実績

TSMC熊本工場を運営するJASMは、2025年1月の国内投資拡大のための官民連携フォーラムで、第1工場における間接材の国内調達比率を2026年に50%、2030年に60%へ引き上げる目標を掲げました。
すでに140社以上の国内企業と新規取引を開始しており、製造用薬品、クリーンルーム製品、構内警備や食堂サービス、化学品の充填作業、パーツ洗浄、設備メンテナンスなど、「熊本発の取引」が着実に増加しています。
半導体の前工程で使用される化学薬品や研磨剤などの主要原材料は、世界的な大手企業が供給を担っており、地場企業が直接参入できる余地は限られています。
このため、熊本の地場企業がサプライチェーンに関与できる領域は、設備メンテナンスや保守などのサービス分野が中心になると見られています。
大手・外資系サプライヤーの熊本進出が加速

TSMCの第2工場計画を受け、国内外の大手サプライヤーが熊本での拠点拡大を進めています。
東京応化工業は2024年6月に菊池市へ第2工場を完成させ、2024年12月に富士フイルムHDは研磨剤生産ラインを増強、同月荏原製作所も南関町のCMP装置工場を増設しました。
台湾企業も活発で、マーテックは2023年9月に熊本市にラボを開設し、ハーメスエピテックは2024年4月に大津町に保守・メンテナンス拠点を新設。サプライチェーンのグローバル化とローカル化が同時進行しています。
ジェトロ熊本は2023年9月に半導体分野等外国企業支援デスクを設置し、2025年3月までに台湾企業42社を支援し、うち4社が熊本に進出。特に保守・メンテナンス・分析分野の台湾企業の参入意欲が高いと報告されています。
地場企業の挑戦と行政の支援

地場企業の参入は、セキュリティや人材派遣、リサイクルなどのサービス分野を中心に広がりを見せています。
熊本県とくまもと産業支援財団は2024年11月、初のJASM現地調達ニーズ説明会を開催。招待制ながら37社が参加し、そのうち約30社が個別商談を継続しています。
ただし、JASMとの直接取引には高い技術・品質・認証基準が求められるため、1次・2次サプライヤーを通じた間接的な参入が現実的なルートと見られています。
製造装置産業への地場企業参入を重点支援

TSMCの1次サプライヤーである東京エレクトロンや荏原製作所が熊本に製造拠点を構えていることを受け、県は2025年度より半導体製造装置産業への地場企業の新規参入を支援するための事業を開始しました。
委託先である産業支援財団は、製造装置メーカーOBをアドバイザーとして自動車関連企業などに派遣し、各社の参入意欲や技術力を把握します。今後、セミナーや技術支援、マッチングを重ねながら、初年度には5社への技術専門家派遣を目指しています。
熊本県の半導体サプライチェーンについて、レポートに詳細にまとめています。
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